Nice to meet you, too.
私は若い時、普通の人ができないような経験をさせていただいた(逆にいうと普通の人が経験していることを経験していないので、非常識な部分も沢山ある)。
夏樹がウィンドサーフィンのプロとしてワールドカップを転戦していた頃に、「世界は2人の為に」という感じの勢いで結婚し、「新婚旅行はワールドカップ」ということでツアーに同行していた。
その頃は英語がひどくて(今でもひどいが)、「Nice to meet you!」と他の選手や関係者に挨拶されても、夏樹の影に隠れて「へへー」と照れながら微笑むだけで、「Nice to meet you, too」すらもきちんと言えなかった。
しまいには、話しかけられると困るので、大会会場の隅に置いたレンタカーに逃げ、待ち時間は本を読んだりしていた。
だから、海外1年目の人がシャイになる気持ちがとてもよくわかる。
夏樹と同じように旅をしてきたが、見た事聞いた事が随分違う。夏樹には「木の鐘に打っても響かない」とよく言われたものだ。
行き先は世界の強風の吹く海。宿泊は安宿で自炊。色々なスーパーマーケットを知っている。夏樹は好奇心旺盛で、まるで「おさるのジョージ」状態。いつも運転しながら、きょろきょろしている。色々な国でどんどん行動して、色々なものを食べる。まさにチャレンジャーだった。
ところで、ワールドカップに持っていくウィンドサーフィンの道具は非常に多く、飛行機に載せようとすると大変。航空会社によっては、私の航空運賃代くらいの差額が出るほどだ。
夏樹は、あの手この手で航空会社と超過料金について交渉していた。よくやっていたのが、タマキ風のスマイルでカウンターへ行き、誠実に話すというもの。笑顔は不可能なものも可能にするので不思議だ。
そんな夏樹から学んだことは、諦めないで行動するということ。ああだこうだ言う前に、まず仕事にとりかかってみる。そうすると、思いがけない知恵や力が湧いてくる。
今、頼る夫は目には見えなくなってしまったが、どんなときでも、まず立ち止まって祈り、前に進むようにしている。
挨拶もできずに海外に来たが、1歩1歩……。
飯島寛子
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